【CD】ホロストフスキー ウィーン国立歌劇場 ライヴ録音集

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特長的なプラチナブロンドの髪、筋肉質の堂々たる体格、そして何より艶やかなバリトン。日本にもたびたび来日し素晴らしい歌声を聴かせたロシアの歌手ディミトリー・ホロストフスキー。2017年11月22日、彼の突然の訃報は世界中のファンに衝撃を与えました。このアルバムは、1994年から2016年、亡くなる1年前までのウィーン国立歌劇場での歌唱が収録されています。


2016年、注目の指揮者キリル・ペトレンコと共演した《エウゲニ・オネーギン》のオネーギン役はホロストフスキー最大の当たり役ですが、このアルバムではロシア物よりも、ヴェルディ歌手としての彼に重点が置かれており、どの役にも知的な解釈が施されたホロストフスキーならではの歌唱を聴くことはできます。2016年の舞台は、かなり病状も進んだ状態で歌っていたとされますが、渾身の歌唱からは具合の悪さは微塵も感じられません。とりわけ11月29日の《椿姫》での絶唱は、彼の思い出を永遠に聴き手に刻むほどの強い印象を残します。(輸入元によるPRコメントより)



これはファンならずとも、是非とも手元に置いていただきたい1枚。

オペラ歌手としてのDmitri Hvorostovskyを知ってもらうには最適なCDだと思います。


1994年31歳から、最後のオペラ出演となった2016年54歳までのウィーン国立劇場での録音が年代順に収められています。

単なるアリア集ではなく、重唱やシーンも含んでいるのは嬉しく、いい選曲になっていると思います。



<演 奏>

Dmitri Hvorostovsky ディミトリー・ホロストフスキー(バリトン)

ウィーン国立歌劇場管弦楽団&合唱団



【収録曲目】

◆ベッリー二:歌劇『清教徒』~「Ah! Per sempre io ti perdi - bel sognio beato(ああ、永久に私はあなたを失った - 祝福された美しい夢)」

共演:ルーベン・ブロイトマン(テノール)

指揮:プラシド・ドミンゴ

録音:1994年5月2日


再生して1曲目に飛び込んできた美しい声に、思わず涙があふれました。

ベルベットを思わせる響きと比類なきレガート…こんなに美しい声がほかにあるでしょうか…。


1990年代はベルカント・オペラにもよく出演していたようですが、批評はあまり芳しくなかったようです。

この時の「清教徒」ではブーイングも受けたといいますが信じられません。


◆ ロッシーニ:歌劇『セヴィリャの理髪師』~「All’idea di quel metallo(その金属のことを考えると)」

共演:ミヒャエル・シャーデ(テノール)

指揮:シモーネ・ヤング

録音:1999年5月14日


「セビリア~」のフィガロもやはり1990年代によく歌っており、コンサートでもアリアや二重唱をよく取り上げていました。


彼自身、喜劇を演じるのは好きだったようで、METのゲルブ氏に「セビリア~」に出演したいと話したこともあるそうですが、いい返事はもらえなかったとのこと。

「ドン・ジョヴァンニ」でもレポレッロをやってみたいなんてことも言ってました。


2010年のカストロノーヴォ&シウリーナ夫妻とのコンサートでは、久しぶりに「セビリア~」の重唱を披露。

やりすぎなぐらい弾けていたのを思い出します。


この1999年の録音でも、Dimaのフィガロはとても活き活きとしていて楽しそう。

アジリタのテクニックも安定していることに驚かされます。


◆ チャイコフスキー:歌劇『スペードの女王』~「Ya vas lyublyu(私はあなたを愛しています)」

指揮:小澤征爾

録音:1999年6月1日


このアリアはDimaの代名詞と言えると思います。

この曲を初めて聴いたのはDimaの歌でしたが、こんな素敵な愛の告白をされて、なぜリーザがゲルマンに走るのか、全く理解ができませんでした。


終始静かに美しく、そして柔らかく、なめらかに歌われ、最後の"состражду вам я всей душой"、この曲唯一のフォルティッシモであり、最高音Gへのクライマックスへの自然な進行は何度聴いても魅了されます。


彼の集中力の高さと丁寧さが光る1曲です。


◆ヴェルディ:歌劇『ドン・カルロ』~「Signora! Per Vostra Maesta - Che mai si fa Nel suol francese - Carlo, ch’e sol il nostro amore(お妃様、あなた様に - あのように優雅なフランスの地で - カルロ様、ただひとりわれらが敬愛するあのお方は)」

共演:ヴィオレータ・ウルマーナ(メゾ・ソプラノ)、ミリアム・ガウチ(ソプラノ)

指揮:フィエコスラフ・ステイ

録音:1999年5月25日


「ドン・カルロ」からこの場面が選ばれているのは嬉しかったです。

ここのDimaが歌うロドリーゴは、私のお気に入りでもあります。

重厚なこの作品ではロドリーゴも重い歌が多いのですが、この場面はDimaの美しいレガートが最も活きるところです。


やっぱり上手いな…。フレーズの最後をピアニッシモでおさめるところなんて、溜息が出る美しさ。


◆ヴェルディ:歌劇『リゴレット』~「Pari siamo - Figlia! Mio Padre!(私たちは同類だ - 娘よ!お父様!)」

共演:パトリシア・チォーフィ(ソプラノ)、ドンナ・エレン(メゾ・ソプラノ)、ラモン・ヴァルガス(テノール)

指揮:ミヒャエル・ギュトラー

録音:2010年11月16日


初日の録音ためか、少しオケと合っていないような気がしました。

個人的にはもう少しゆったりと聴きたい所もありましたが、指揮はあっさり、サクサクと進んでいく印象。

チョーフィは少し声がかすれ気味のところがあり、高音が辛そうに聴こえました。調子が悪かったのでしょうか…。


Dimaにリゴレットは合わないという意見は多いと思いますが、私は彼のリゴレットは大好きです。

決してスタンダードなリゴレットではありませんが、彼の声には常にドラマがあり、そして温かな声からは娘を思う父親としての愛情が強く伝わります。


彼自身もこの役に思い入れが強く、亡くなる年に出演した全てのコンサートで「リゴレット」のアリア" Cortigiani, vil razza dannata"を歌い、METガラのサプライズ出演にもこの曲を選曲しました。

何がそんなに彼をリゴレットに惹きつけていたのでしょうか。


同年2010年4月にもチョーフィーとウィーンでの「リゴレット」に出演していますが、この時のDimaは酷いスランプ状態だったそうで、そんな時に「リゴレット」という大役を演じなければならず、半ば破れかぶれで出演。

それをきっかけにスランプから脱出した…という記事を読んだことがあります。


◆チャイコフスキー:歌劇『エフゲニ・オネーギン』~「Vi mnye pisali - Kogda bi zhizn domashnim krugom(あなたは私に手紙を書いた)」

共演:オルガ・グルヤコーヴァ(ソプラノ)

指揮:キリル・ペトレンコ

録音:2010年6月5日


この日の公演を私は現地で聴いています。

Dimaはこのプロダクションが嫌いで文句を言っていたようですが、そこはやっぱりプロ。

このプロダクションに合わせたアプローチでオネーギンを演じていました。


このアリアは聴かせどころもないし、とても地味な一曲ですが、それだけに難しいものだと思っています。

タチヤーナへの「お説教のアリア」とでも言えるこの曲。それを文字通り話しているように歌います。

Dimaの重みのある声で歌われると、タチヤーナもオネーギンのお説教がこたえることでしょう。

最後は珍しくキーを上げていません。


◆ヴェルディ:歌劇『シモン・ボッカネグラ』~「Plebe! Patrizi! Popolo(平民たちよ、貴族たちよ、引き継ぐものたちよ)」

共演:バルバラ・フリットリ(ソプラノ)、フランチェスコ・メーリ(テノール)フルッチョ・フルラネット(バス)、他

指揮:マルコ・アルミリアート

録音:2016年6月4日


ここからの3曲は、脳腫瘍の闘病中の舞台となります。


この公演はライブストリーミングもあり、映像が残りました。


この収録日も私は現地で聴きました。

そして、このシモンが私にとって最後のDimaのステージとなりました…。


こうやって過去の演奏から続けて聴いてくると、やはり若干声量がないような気もしますし、力も入りにくそうに感じますが、とても癌の闘病中とは思えない渾身の歌唱です。


私は、Dimaが歌うヴェルディではこの「シモン・ボッカネグラ」が一番好きです。

トロヴァトーレのルーナ伯爵も大好きですが、彼の声が持つ柔らかさ・温かさが一番活きるのはこのシモンだと思うのです。


ここの大会議室の場面も大好きなのですが、個人的には、3幕のフィエスコとの二重唱を多くの人に聴いていただきたかったです。

あの場面からシモンの死までのDimaとフルラネットの歌唱には、オペラであることを忘れるほどの深い感動を覚えます。


◆ヴェルディ:歌劇『椿姫』~「Pura siccome un angelo(天使のように純真な娘を)」

共演:マリーナ・レベカ(ソプラノ)

指揮:スペランツァ・スカップッチ

録音:2016年11月29日


Dimaの最後のオペラ出演となった舞台です。ライブストリーミングもされました。

もちろん、当時はそんなことになるとは思ってもいませんでしたが、当時聴いていて、いつものDimaの声とは違いましたし、明らかに具合が悪いことがわかったので、聴いているのがとても辛かったことを思い出します。


収録されているのは、大好きな2幕のヴィオレッタとの二重唱。

歌いだしのDimaは本当に辛そうで、どんなに苦しかったか、どんなに辛かったか…肉体的にも精神的にもきっと極限状態だったのだと思うと、こちらも胸が張り裂けるほど苦しくなりました。


しかし、場面が進んでいくと少しずつそういうことが薄れていき、闘病中だったことも忘れるほど、いつものDimaの歌に聴こえてくるのです。

なんと人を引き込む力が強い人なのでしょう…!


◆ヴェルディ:歌劇『仮面舞踏会』~「Alzati! - Eri tu(立て - お前なのだ)」

指揮:ヘスス・ロペス・コボス

録音:2016年4月23日


この23日の公演はラジオ放送を聴いているのですが、確かDimaの調子はそれほど良くなかったと記憶しています。

収録されているこのアリアも、若干声の艶がないような気がします。


しかし、先ほどのジェルモンと同じく、そういう不調を補って余りあるものがこの時の彼にはあります。

それが私たちの心を動かすのだと思います。


Dimaはああ見えて信頼されてる人からの「裏切り」を多く経験しているそうですが、それらがこのアリアに反映されるのか、いつも"Eri tu"を歌うDimaには何とも言えない気迫を感じます。





聴き終えて…。


改めて、私はDmitri Hvorostovskyという人が大好きだと強く確信しました。

私にとっては彼が最高であり、彼以上の歌手には今後出会えないと思います。


それでいいのです。


彼に出会えたこと、彼の歌を聴けたことは私の人生の中で最高の幸せでした。


もう彼に会うことはできないし、彼の新しい歌を聴くことはできませんが、彼はたくさんの宝物を私たちに残してくれました。


まだまだ涙は尽きないし、悲しみが癒されることはありませんが、彼が遺してくれた記録に触れることや、彼のお墓や、彼に所縁のある地を訪れることで彼を感じることはできます。


これからも彼の魂は生き続け、彼を愛するファンと共にいるのだと信じています。




Live Recording 1994-2016
Orfeo
2018-09-19
Dmitri Hvorostovsky

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この記事へのコメント

花宴
2019年05月14日 12:03
実はこのCD、買うだけ買ってラップも取らずの箱入り状態、そろそろ聴かないといけませんね。 娑羅さんがお先に頑張ってくれたので、感想など拝見しつつじっくり聴く機会を見つけます。 このCD、楽しみなのはベルカント二つとリゴレットかなあ、チョーフィーとの共演って舞台で観てみたかったですね。 2016年以降を聴くのはまだイタい気分ですが、当時の彼が反映された録音がCDとして残ってくれたのは嬉しいです。 
2019年05月15日 01:23
◆花宴さん
せめて開封してみてください。Dimaの素敵な舞台写真も見られますから。

2016年の3本を聴くのはとても辛いですが、不思議と聴いているうちに彼の世界へと引き込まれます。
改めて凄い人だったと思うと同時に、こんな人のファンであった(今ももちろんファンですが)ことを誇りに思います。
きっと涙なしでは聴けないと思いますし、私も何度聴いても涙を抑えることはできませんが、それでも何度も聴きたくなり、リピートしまくっています。
イヤホンで聴くことをお勧めします。