【CD】Verdi : Rigoletto

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<演 奏>
Rigoletto : Dmitri Hvorostovsky
Gilda : Nadine Sierra
The Duke of Mantua : Francesco Demuro
Sparafucile : Andrea Mastroni
Maddalena : Oksana Volkova

Giovanna : Egle Šidlauskaite
Count Ceprano : Tadas Girininkas
Countess Ceprano : Egle Šidlauskaite
Matteo Borsa : Tomas Pavilionis
Count Monterone : Kostas Smoriginas
Marullo : Andrius Apšega
A Court Usher : Liudas Mikalauskas
A Page : Egle Šidlauskaite

Men of the Kaunas State Choir
Kaunas City Symphony Orchestra

Conductor: Constantine Orbelian

[録音: 2016年7月1~9日 Kaunas Philharmonic, Lithuania]


このCDは、ホロストフスキー(以下、Dima)が亡くなるわずか2週間ほど前にリリースされました。

彼が最後に残したアルバムは2枚。
1枚はスヴィリードフの"Russia Cast Adrift"、そしてもう1枚がこのヴェルディの「リゴレット」でした。

どちらも2016年7月の録音で、このリゴレットが7/1~9にリトアニアで、そしてスヴィリードフが7/15~20にサンクトペテルブルクで録音されています。

20日間かけて全く違う曲を、場所も移動しての録音。
しかも、彼は脳腫瘍を抱えて闘病中の身でした。

この録音からわずか4ヶ月後、彼はオペラのステージからの引退を余儀なくされます。
病状の悪化でした。

そして、この「リゴレット」のリリースを待っていたかのように、2017年11月22日、彼は旅立ちました。

彼が亡くなってから、私は彼のオペラ映像はもちろん、CD、インタビューなど全てに触れることができなくなりました。
写真は常に私の周りにありますが、それらを目にする度に言い様のない悲しみがこみあげます。

しかし彼が残された時間の中で、命を削るような思いで作り上げたこの2枚のアルバムは、なんとしても聴かなくてはいけない…その思いは私の中に強くありました。

スヴィリードフは約37分の短い作品のため、なんとか年内に聴くことができましたが、リゴレットは2時間あるオペラ。
まとめて集中して聴く時間がなかなか取れなかったこと、また、Dimaのリゴレットには思い入れもあるため、聴くのが怖かったこともあり、聴くまでに半年もかかってしまいました。

CDを聴く前、私はアルバムのジャケット写真に向かってそっと手を合わせ、彼に祈りを捧げました。


Dimaの歌声をまともに聴いたのはスヴィリードフのCDを聴いて以来。約4ヶ月ぶりとなります。

1幕、リゴレットが登場して"In testa che avete, signor di Ceprano?"と歌い始めた瞬間、涙がこぼれました。
あ~、Dimaの声だ…私の大好きなDimaの声だ!

この録音のちょうど1ヶ月ほど前、私はウィーンで彼が出演した「シモン・ボッカネグラ」を観ています。

その時は病状も安定していると信じていましたし、こちらも興奮していたので、声の調子に関しては特に問題は感じませんでした。

しかし、それから約1ヶ月後に録音したこの「リゴレット」を聴くと、やはり声の支えが少し弱くなっているような気がします。

1幕の速いテンポのところではやや音楽に遅れ気味でしたし、sotto voceも辛そうでした。

声の響きもかなり重く暗くなっていましたが、これは病気の影響というより年齢によるものかもしれません。

この先この声でさらに新しいレパートリーを開拓できたのかもしれないな…と思うと、悔しい気持ちでいっぱいになります。

1幕のジルダとの二重唱の最後、"addio!"の切り方がかなり不自然な気がしました。
体調のせいで伸ばすのをやめたのかも…と思いましたが、それにしても2人の声が急に消えてしまったのは不思議でした。
録音のトラブルではないですよね?

Dimaのリゴレットといえば、ファンの間では2001年ヒューストン・グランド・オペラの熱い名演の録音が有名です。
この時、誘拐されたジルダを探すDimaのリゴレットは舞台中を走り回り、その大きな足音と、何度も「ジルダ!」と叫ぶ声は鬼気迫るものでした。

スタジオ録音の今回はさすがにそのようなことはありませんが、ブックレットの歌詞カードに"Gilda!...Gilda!"と書いてあったにもかかわらず、Dimaはここで1度もジルダの名前を呼びませんでした。

体調のせいもあるかもしれませんが、色んな意味で寂しさを感じてしまいました。

1幕では色々と気をもんだDimaのリゴレットですが、不思議と2幕以降はそういうことがほとんどなく、調子がいいように聴こえました。

スタジオ録音のため、1幕から順に録音しているとは限りませんし、9日間もかけて録音しているので、ライブのようにだんだん本人の調子が出てきた…ということではないと思います。

こちらの耳が慣れてきたのか、Dimaが2,3幕のほうが気持ちが入りやすいのか…理由はわかりません。

"Cortigiani, vil razza dannata"もきっちりアクートを入れ、しっかり伸ばしていました。

Dimaはこの曲を、亡くなる年に出た5つのステージ、全てで歌っていました
中でも昨年5月7日、METのガラ・コンサートにサプライズで登場した時の感動は、とても言葉で表すことはできません。

私はこの時、Dimaはきっともう一度復活してくれる!…そう信じていました…。

"Cortigiani"を聴きながらあのMETの舞台を思いだし、また涙があふれます。



なぜ彼がこの曲にそれほどまでにこだわったのか…私にはわかりません。

しかし、最後のオペラの録音が「リゴレット」だったこと、最後まで歌い続けたアリアが"Cortigiani"だったことは、単なる偶然ではないような気がします。
そこに、彼の「リゴレット」に対する並々ならぬ思いがあったのだと思います。

なお、彼は今月5/31にから始まるウィーン国立歌劇場の「リゴレット」にキャスティングされていました。
フローレス、ガリフッリーナとの共演という、実現すれば夢のようなキャスティングでした。
大変残念です。

私は一度だけ、Dimaのリゴレットを生で観ています。
問題作となったMETのラスベガス版「リゴレット」です。

ジルダとの2幕の二重唱は特に好きな場面ですが、ここを聴いている時、このMETの舞台の色々な思い出がよみがえり、リゴレットがジルダに向かって何度も"piangi"と歌うところでは、Dimaが私に"piangi"と歌いかけてるような気持になり、号泣してしまいました…。

あの時のDimaは本当にご機嫌で…。
まさか、あれが私の最後のMETでのDimaのパフォーマンスになるとは思いませんでした。

ライブ録音と違い、スタジオ録音のいい点は、1人1人の声をきちんとマイクが拾ってくれること。

そのおかげで、1幕の群衆に混じって歌うところや、3幕の有名な四重唱でも、しっかりDimaの声を聴きとることができました。

どんなにたくさんの人と歌っていても、私はずっと低音を支えるDimaの声にだけ耳を傾けていました。

死にゆくジルダに向かってリゴレットが歌う"No, lasciarmi non dêi, non morir!"は身につまされました。
私がDimaに向かって言いたかったです…。


デュークを歌ったのはデムーロ。
最近では2014年にロイヤル・オペラの「椿姫」で共演しています。

残念ながら、私には彼の魅力がよくわかりませんでした。
言い方は悪いですが、ちょっと古臭いイメージなのです…。
さすがにイタリアン・テノールらしい正統派の声ですが、一本調子に聴こえ、カリスマ性を感じることはできませんでした。

ジルダを歌ったのは今売り出し中のシエラ。
彼女とは初共演ではないでしょうか?

やや透明感が欠けたハスキーな感じの声で、残念ながら私好みのジルダの声ではありませんでしたが、録音当時20代後半という若さだったそうなので、まだまだこれからのソプラノなのだと思います。


以下は「リゴレット」録音中の写真です。
Dima、元気そうに見えますね。

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Dima、「リゴレット」を残してくれてありがとう。
隅々まであなたの声をマイクが拾ってくれてるよ。
今はまだ辛くて何度も聴けないけど、これは私の宝物。
いつか、何度も繰り返して聴ける日がくると思うから…。






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