【CD】Sviridov: Russia Cast Adrift

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<演 奏>
バリトン:Dmitri Hvorostovsky(ディミトリー・ホロストフスキー)

サンクトペテルブルク交響楽団
スタイル・オブ・ファイヴ

指揮:コンスタンティン・オルベリアン

〔録音: 2016年7月15~20日 the House of Radio in St. Petersburg]

<曲 目>
スヴィリードフ: Russia Cast Adrift
1. 秋
2. 私は最愛の家の後ろに残る
3. 門を開けよ、守護天使
4. 銀の小道
5. ロシア漂流
6. シモン、ペーター…あなたたちはどこに
7. わが父の家よ、あなたはどこに
8. 天の川の汚れなき祈り
9. 死の角笛の響き
10. 秋のフクロウの叫び
11. 私は幸福を信じる
12. わが祖国、幸せと永遠の時

【ボーナストラック】
スヴィリードフ: Petersburgより第9曲「街の乙女」

※各曲の日本語タイトルはこちらこちらを参考にさせていただきました。



CDが届いてすぐに聴いた。何度も聴いた。
歌詞の意味もわからないのに、なぜか引き込まれた。

歌詞の日本語訳はない。自分で訳さなくてはいけない。
時間がなくて、その作業はなかなかできなかった。

そうこうしているうちに、ホロストフスキーはスケジュールが白紙になった。
病状が悪化しているのは明らかだった。
私は彼の歌が聴けなくなった…。

2ヶ月ほど経って、「やっぱりもう一度きちんと聴いて感想を仕上げなきゃ。」…そう思い、ブログを開き、タイトルなどを書き始めていた。

その2日後。
彼は神様のもとへ旅立ってしまった。

私は彼の写真、ビデオを見ることができない、歌を聴くことができなくなってしまった。

1ヶ月があっという間に過ぎた。
これは彼の遺作。
今もう一度、このCDを手に取って聴かなくてはならない。


スヴィリードフという作曲家はロシアでは人気があるそうですが、日本ではほとんど知られていないと言っていいと思います。

しかし、ホロストフスキー(以下Dima)はスヴィリードフと親交がありました。
Dimaがリサイタルでスヴィリードフの曲を歌った時、客席にスヴィリードフ本人が来ていたこともあります。
スヴィリードフの作品の初演をめぐって、Dimaとオブラスツォワが争ったこともあるそうです。(歌曲集"Petersburg"のことか?)

Dimaがこの"Russia Cast Adrift"をレコーディングするのは2度目。
1度目は1996年にフィリップスからリリースされた、ピアノ伴奏によるもの。
そして、今回はオーケストラ・バージョンでのレコーディングとなりました。

語学力の全くない私にとって、歌詞の訳は大変な作業でした。
まず、この歌詞はロシアの詩人セルゲイ・エセーニンによるもの。

彼はなかなか波乱万丈な人生を送っていますし、彼の詩は外国語に翻訳しづらいと言われているそうです。
元々【詩】というものは母国語であっても理解しにくいものですし、訳したところでエセーニンがいわんとしていることまでは到底理解できません。

この歌曲集のタイトル"Russia Cast Adrift"も、日本語でのタイトルが定まらず、私が目にしただけでも、
【ともづなを解かれたロシア】【飛んでいくロシア】【ロシア漂流】
といったものがあり、どれもピンとこないものばかりでした。

訳ができても、なんだかなぁ…という感じだったのですが、今回その拙い訳を片手に通して聴いてみたところ…今まで流し聴きしていたことを本当に申し訳なく思い、ずっと泣きながら聴くことになってしまいました。

エセーニンの詩の特徴でもある、ロシアの大自然の見事な描写、そして祖国ロシアへの思いにあふれた歌詞で、さらには死や天国といったキーフレーズも多用されています。

この録音は2016年の夏。
Dimaはこの1年前に脳腫瘍で余命宣告を受けており、死も意識していたと思われます。
祖国への思いも強くなっていたことでしょう。
いったいどんな思いでこの歌を歌っていたのか…そう思うと涙が止まりませんでした。

オケ伴奏の効果により、ピアノ伴奏の時より一層ドラマチックに感じ、ロシアの雄大な自然が目の前に広がって見えるようでした。

そして…なんといってもDimaの名演が光ります。

今回ヘッドホンを使って聴いてみたのですが、やはり高音などは全盛期に比べるとやや辛そうなところもありました。

しかし、若い時の録音では力強さで圧倒されたこの曲が、今回はなんと美しく、なんと柔らかく聴こえることか…。
ピアニッシモで消える最後の音まで神経を使った細やかな歌唱には、心を揺さぶられました。

いくつか特に印象に残った曲を…。

第4曲「銀の小道」…これは私は天国への道のことだと理解してしまい、最後のフレーズ"Perhaps I can find heaven's gates alone"には胸が苦しくなりました。

第5曲「ロシア漂流」…タイトルにもなっているこの曲は、おそらくロシアへの思いを歌った歌詞なのでしょうが、寺院、白鳥、天国という言葉が登場。
何度も出てくる「飛べ!」という言葉に、ノヴォデヴィチ墓地に埋葬された彼のことを思い、天国へ飛んで行ってしまったのかな…と悲しい思いがこみ上げました。

第9曲「死の角笛の響き」…これは静かな曲調の多いこの曲集の中で、ひときわ強烈な印象を残します。
「聴こえる、聴こえる、運命のトランペットが!」というフレーズが冒頭と最後に登場。
「あなたは死から逃れることができない」…このフレーズを、死と向かい合っていたDimaが歌っているのです…!
どうして涙を抑えることができましょう…!

第12曲「 わが祖国、幸せと永遠の時」…この曲は、ピアノ伴奏で聴いた時からとてもカッコいい!とお気に入りの1曲だったのですが…今聴くと、ガラリと印象は変わりました。
若い時のDimaはこの曲を力強く歌っていて、いわゆる賛歌のように聴こえたものですが、今回の録音はDimaの魂の叫びのように聴こえました。

彼は本当にロシアを、祖国を愛していた…!

自宅のあるロンドンではなく、モスクワとクラスノヤルスクに分骨を遺言として託したこと、今年4月に肺炎から復帰したコンサートで、当初予定されていたプログラムから、ロシア・オペラを中心としたものに変更したこと。

これらを見ても、彼がいかにロシアを愛していたか、そしてロシア人として生涯を終えたかったかがわかります。

私は彼によってロシア歌曲、ロシア・オペラ、そしてロシアの芸術、ロシアの素晴らしさを教えてもらいました。
彼のファンになっていなかったから、きっとロシアは私にとって、今でも近くて遠い国だったはずです。

だから、彼が最後にロシア人としての誇りを私たちに示してくれたこと、これをしっかり受け止めたいと思います。


ボーナストラックとして入っているのは、同じくスヴィリードフの"Petersburg"の終曲「街の乙女」です。
幸い、この曲は梅丘歌曲会館さんに訳がありました。

こちらはブロークという人の詩になりますが、これも難解…。
訳を読んでもよく理解できません。

ただ、このシンプルな、同じメロディーの繰り返しによる曲をDimaは見事に表現しています。

理解できないのが正解かのように、「おまえ」の顔も「少年」の顔も私には浮かんでこないのです。
霧の中、ぼや~っとした影だけが浮かんでいる…その不思議な情景がこの曲の魅力のように思いました。


なお、このアルバムは2018年のグラミー賞、【最優秀クラシック・ヴォーカル・ソロ賞】にノミネートされています。






Sviridov: Russia Cast Adrift
Delos Records
2017-06-09
Sviridov

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この記事へのコメント

花宴
2017年12月31日 13:12
大切なCDで、本当に大切な一枚になってしまいました😢。 スヴィリドフとは合うんですね、ディーマのどこかメロウで憂鬱で、それでいてモダンな声質と歌唱がスヴィリドフの曲想と相乗効果がある。 そしてどこか旅情がありますね。 ロシアの空気がそのまま伝わってくるような。 ピアノ伴奏も好きですが、オケ版はドラマティックで気に入りました。 沙羅さん、このレビューは大変だったと思います。 どうも有難うございました。 グラミー賞、取れると良いな!!
2017年12月31日 23:29
◆花宴さん
昔ピアノ伴奏版を聴いた時は、恥ずかしながら歌詞をちゃんと見ずに聴いていたんですが、今回拙いながらも訳を見ながら聴いてみて、Dimaがこの曲のレコーディングにこだわった理由がわかったような気がします。
花宴さんがおっしゃるように、Dimaとスヴィリードフの相性が良く、素晴らしい相乗効果が生まれていますよね。

このオケバージョンでワールドツアーの話もあったんですよね…。本当に残念です。
せめてグラミー賞、取ってもらいたいですよね!