【CD】 In This Moonlit Night

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<演 奏>
バリトン:Dmitri Hvorostovsky
ピアノ:Ivari Ilja

<曲 目>
チャイコフスキー:ラトガウスの詞による6つの歌曲集Op.73
1.私はおまえと一緒に座っていた
2.夜
3.この月夜に
4.太陽は沈んだ
5.暗い日に
6.再び、前のようにただひとり

ムソルグスキー: 死の歌と踊り 
1.子守歌
2・セレナード
3.トレパーク
4.司令官

タネーエフ: 歌曲集 
1.全ては眠りにつくOp.17-10
2.メヌエットOp.26-9
3.この風は高地からではないOp.17-5
4.冬の道Op.32-4
5.鍾乳石Op.26-6
6.休みなく胸はうちOp.17-9

[録音:2011年7月13日~24日 モスクワ音楽院大ホール]


今回はなかなか渋いプログラムです。はっきり言って地味です。

いつものように、梅丘歌曲会館「詩と音楽」さんのお世話になりながら聴きました。
本当にこのサイトには何度助けられたことでしょう!
このサイトがなかったら、私はここまでホロストフスキーのロシア歌曲を熱心に聴けたかどうか・・・・。
この場を借りて、改めてお礼申し上げます

同じ時期に録音したRachmaninov Romancesのレポにも書いたのですが、やはり今回も全体的に無駄な力の入っていない、枯れたいい仕上がりになっている印象です。

ピアノもそうですが、若い時はテクニックを誇示する人が多く、またそれがフレッシュな印象で好感が持てたりするのですが、さすがに50代以降になるとそういう人も少なくなり、70~80代になると、悟りの境地に達したような、実に神聖な音楽を聴かせてくれる巨匠が多くなります。

歌の世界では70~80代で現役という人は少なくなりますし、やはり50代を過ぎてくると、芸術的な演奏に出会うことが多くなるのかもしれません。

チャイコフスキーは以前にも録音している曲がありますが、Op.73の6曲をまとめてというのは初めてかな?
これは、チャイコフスキー最後の歌曲集なのだそうです。

1曲目の「私はお前と一緒に座っていた」は過去のアルバムMy Restless Soulにも入っていましたが、その時よりも前奏のテンポが遅く、深みを増した感があります。

「遠くで雷鳴が聞こえた」のところではピアノパートにトレモロを使う上手さや、和声進行も印象的な曲で、1曲目からこれか~と、ここで既にやられた~!って感じです(笑)

先ほど「枯れた仕上がり」と書きましたが、そのためか、派手目なメロディーの美しい曲よりも暗めな曲のほうに、より一層ホロストフスキーの良さが活きているような気がしました。

恋の喜びを高らかに歌い上げる曲よりも、「夜」「ふたたび昔のように」のような、絶望や悲しみを歌った曲のほうが、なんかピッタリくるんです。
年齢を重ねてそういう声になった・・・ということなのかもしれません。

ムソルグスキーは過去にも録音がありますが、ピアノ伴奏で歌われたものの録音は今回初めてだと思います。

これはもう・・・・の扱い方が絶妙。
この絶妙な間によって、音楽に緊張感が増します。
これはもちろん、ピアニストのイリヤさんの力もあります。

この間の上手さを一番感じたのは「子守歌」でした。

オケ版だと、どうしてもパワフルさに重点が置かれがちなので、その点ではピアノ伴奏版はドラマティックさに少し欠けるかもしれませんが、聴き慣れるてくると、このほうが「死の歌と踊り」という世界を感じることができるような気がしました。

いつも「セレナーデ」の最後"Ты моя!"(=お前はわたしのもの!)にしびれるのですが、今回はその直前の"молчи!..."(=黙って)の表現にドキッとしました。
これにより、次に来る"Ты моя!"という言葉への集中力が高まります。

タイトル通り4曲とも【死】が登場するわけですが、それぞれタイプの違った【死】(死神)で、その歌い分けが非常に上手く、当たり前ですが4曲通して聴くことによって、初めて一貫性をもたらすのだなと改めて感じました。

聴けば聴くほどホロストフスキーの上手さにハマってしまう、危険な曲かも・・・・・。

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さてタネーエフについてですが。
私はこの作曲家について全く知らなかったので、学生時代に使っていた「音楽辞典・人名」を引っ張り出してきました

チャイコフスキーより16歳年下で、チャイコフスキーに作曲を、ニコライ・ルビンシュタインにピアノを師事。
自身も教育者として、スクリャービン、ラフマニノフ、プロコフィエフらを世に送り出した・・・とのこと。

どちらかというと管弦楽曲が有名なのか、歌曲について書いているものはほとんどありませんでした。
そのため、梅丘歌曲会館さんにもタネーエフの歌曲の訳はなく(1曲だけあったけど今回の収録曲ではない)、英訳を自力で日本語に訳すという、私の語学力では無謀とも言える努力をすることになりました

今回取り上げた6曲は、どちらかというと古典的な色合いが強いでしょうか。
1曲目の「全ては眠りにつく」、これはホロストフスキーっぽい1曲。
幻想的な夜の風景が目に浮かぶような、美しい曲です。

2曲目の「メヌエット」は、タイトルの通り超古典的な曲なのですが、時々その枠を飛び出すことがあって、そこが面白いかも。

歌詞は、途中まで音楽について語っているかのようですが、貴族社会への風刺なのか、最後は「私の運命を教えて!」という女主人(?)に、「あなたの最期は断頭台です!」と言い放つ言葉で終わっています。

でも、曲は終始愛らしい感じなので、ホロストフスキーの野太い声で歌われるより、軽いソプラノが歌ったほうが合うような気も・・・・・

「この風は高地からではない」も古典的な曲。
この曲では、なんといってもホロストフスキーの超低音に驚かされました。
"И заносил холодным снегом."(=冷たい雪で覆われる)の箇所、バスですか?っていうほど低かった。すごっ・・・・・

「冬の道」はよくありがちな曲。
激しい雪の日の夜、馬車を走らせている風景。
メトネルの「冬の夕べ」なんかに比べると、ピアノパートの規模がかなり小さく感じます。
このへん、やはり古典的ですね。

面白かったのは「鍾乳石」
滴を思わせるピアノの音色、そして日本的なメロディーを感じる箇所があり、そこがまた何度も出てくるのです。
これまたホロストフスキーの声によく合っていて、すごく魅力的な1曲でした。

「休みなく胸はうち」はスヴィリードフの"Drawing Near Izhory"をちょっと思わせるような、勢いのある曲。
(スヴィリードフのほうは長調の曲だけど)

愛する人を思う激しさが曲全体を覆っていて情熱的なのですが、やっぱり私は「鍾乳石」のような曲のほうが、ホロストフスキーの良さが活きると思うのでありました(笑)


彼の声は本当にまろやかで柔らかく、溶けたビターチョコのよう。
音の高低が少なく、平坦な曲ほど彼の声が活きるように思います。
普通はそういう曲、退屈になっちゃうんですけどね
彼は聴かせてくれます

地味な選曲ではありますが、夜、一人で静かにじっくりと聴くことによって、味わいが増すアルバムだと思います。
何度も繰り返し聴くと、お気に入りの1曲も見つかります




この月夜に ~ホロストフスキー:ロシアの歌曲を歌う
ONDINE
2013-02-20
ホロストフスキー

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この記事へのコメント

Dama
2013年03月07日 20:42
私もタネーエフは初めての曲でしたが、す~っと心に入ってくる感じでお気に入りになりました。 ピアノ伴奏の「死の歌と踊り」は来日リサイタルで聴きましたが、録音では初めてなのですか。 歌曲も顔と字幕を見ながらがいいな~! 
花宴
2013年03月07日 22:58
う~ん、素晴らしいCDレヴュー!! DIMAの歌曲に関して娑羅さんくらい的確かつ♡を持ったレヴューを文章に出来る方はいないんじゃないでしょうか? こちらを読みつつ再度真面目に聴いてみます(笑)。 彼のチャイコフスキーは声質が変わってもその時々、チャイコの神様が降りてる感じ。 ムソルグスキーは以前はセレナーデが向いていると思ってたけれど、最近の声だとトレパックなんかも良かった。 私はタネーエフについては事前知識もなく、もうちょっと聴き込んでみたいです。 印象では今回、これにCDの性格が出てる気もする。 冬の日曜日の午後、ゆったり聴きたい感じ(笑)。  
2013年03月08日 00:13
■Damaさん
タネーエフはやはり古典なのでしょうか?馴染みやすいですよね。

「死の歌と踊り」は私の記憶では過去2枚のCD、1枚のDVDが出ているような気がするのですが、それらは全てオケ伴奏でした。

2006年来日公演の「死の歌と踊り」は、間違いなくあの日の白眉でしたね
2013年03月08日 00:18
■花宴さん
なんとも稚拙な文章でお恥ずかしい限り
愛だけはあるんですけどね~

チャイコは、本人お気に入りの作曲者だと言ってましたよね。
チャイコ、ヴェルディ、モーツァルトでしたっけ?(モーツァルトって・・・

>トレパック

そうなの、そうなの!今回トレパックがすごく面白かった!
やっぱり花宴さんもそう思われました!?